1位
BENNY MORE Y SU BANDA GIGANTE
EL LEGENDARIO IDOLO DEL PUEBLO CUBANO: GRABACIONES COMPLETAS 1953-1960
TUMBAO TCD-309[4CDs](EP)
2位
VARIOUS ARTISTS
MEMORIAS MUSICAIS
BISCOITO FINO/SARAPUI PRODUCOES BF601-1~15[15CDs](Brazil)

  • STARGAZERS / THE BEST OF ADLIB YOUNG ANIM OF STARGAZERS FAME (SAM SRCD012(UK))
  • E.K.NYAME / OLD TIMERS E.K.'s BAND (RDRCD-4145(?))
  • VARIOUS ARTISTS / LONDON IS THE PLACE FOR ME: TRINIDADIAN CALYPSO IN LONDON, 1950-1956 (HONEST JONES HJRCD2(UK))
  • 服部良一/東京の屋根の下 (VICTOR VICL-61066~7[2CDs](JP))
  • 坂本スミ子/おスミのラテン・ヒッツ (TEICHIKU TECN25919(JP))
  • DR.VICTOR OLAIYA / THE BEST OF DR.VICTOR OLAIYA: 3 DECADES OF HIGHLIFE (PREMIER KMCD 003(Nigeria))
  • TIERS MONDE COOPERATION / BOWAYO & OMESONGO (NGOYARTO 0100(FR))
  • MILES DAVIS / THE COMPLETE JACK JOHNSON SESSIONS (COLUMBIA K 86359-S2[5CDs](US))
    3位〜10位のジャケットを見る

Review

 年末になってすごいアルバムがリリースされた。セステート・アバネーロチャノ・ポソのコンプリートCDボックスにつづいてあのトゥンバオがまたもやってくれた。ベニー・モレーがRCA時代(1953年〜60年)におこなったレコーディングを年代順に完全収録した4枚組CDボックスだ。しかも貴重なデータや写真満載の分厚いブックレット付き。モレーのCDは腐るほど出ているけれども、編集もデータもいい加減なものばかりだったから切望していた企画であった。これを買わずしてはキューバ音楽ファンとはいえない。というわけで第1位は"EL LEGENDARIO IDOLO DEL PUEBLO CUBANO"で決定。(写真が間に合わなかったので他のサイトから借用しました。)

※)重要なことを書き忘れた。わたしは、このCDボックスをスペインに直接発注したのだが、届いたなかにもう1枚余分にCDが同梱されていて、そこに「このCDをVOL.4とさしかえてください」とあった。まだ買って間もないのではっきり確認できていないが、もとのCD(70分33秒)とさしかえぶん(70分27秒)とでトータル収録時間がちがうところをみると曲がまちがっているのではないか!このVOL.4については十分注意してください。


 ベニー・モレーのせいで惜しくも1位の座からすべり落ちたが、ブラジルのレコード生誕100周年を記念して2002年にリリースされた"MEMORIAS MUSICAIS"も一生ものの名編だった。ショーロ初期音源(1902年〜49年)を集大成した15枚組CDボックス・セット。「ブラジル音楽の父」ピシンギーニャ14歳のときの処女録音を含む初期音源がこんなにもまとめて聴けるなんて(しかも音質良好)夢のよう。まさに奇跡といっていい。資料的な価値とは別に、純粋に音楽として聴いても十分に楽しめた。なお、併せて"A CASA EDITION E SEU TEMPO" というCD-ROM付の書籍も発売された(欲しいけど持っていない)。
 
 このように今年は貴重なすばらしい音源が次々と復刻リリースされて、とても新録を悠長に聴いている余裕などなかった。なかでもアフリカ、とくにガーナとナイジェリアのパームワインやハイライフの充実ぶりがめざましかった。
 
 "THE ROUGH GUIDE TO HIGHLIFE""THE KINGS OF HIGHLIFE"の2枚のオムニバスは入門用に最適なばかりでなく、選曲センスがきわだっていた。とくにナイジェリア・ハイライフのみにしぼった後者の英断は評価に値する。また、ジョン・コリンズがアクラ(ガーナ)につくったボクール・スタジオの音源を編集したオムニバス"THE GUITAR AND GUN""VINTAGE PALMWINE"の2枚も忘れられない。
 
 しかし、とどめはスターゲイザーズとE・K・ニヤメの2枚に尽きるだろう。
 "THE BEST OF ADLIB YOUNG ANIM OF STARGAZERS FAME"は、ガーナのダンスバンド・ハイライフ名門楽団によるCDでは初の単独盤。エル・スール・レコーズなどにわずかに国内入荷したもののすぐに完売。レーベルでも品切れ状態だったが、日本からの熱いエールが実ってこのほど再プレスなった。アドリブ・ヤング・アニムは、創始者グレン・コフィがやめたあとに、同じトロンボーン奏者として後釜のリーダーにすわった人物らしいとの情報あり。スターゲイザーズのせいでかすんでしまったが、ランブラーズのベスト盤全3集も負けず劣らずすばらしかった。
 
 「ガーナ・ギターバンド・ハイライフの父」ニヤメの"OLD TIMERS E.K.'s BAND"も単独盤としては初復刻。相当泥くさい音を覚悟していたが、想像していたより洗練されていたのには驚いた。といっても、スターゲイザーズやランブラーズのようにどなたにもオススメというわけにはいかない。なにせギターバンド・ハイライフですから。
 これら2枚のように、ガーナものは金持ちかなにかの自費出版のような体裁で発売されるケースが多いので早めに買っておくのが鉄則だ。
 
 ここ1、2年、ナイジェリアのPREMIERレーベルからナイジェリア・ハイライフのミュージシャンたちの音源が次々と復刻されている。8位に選んだ"THE BEST OF DR.VICTOR OLAIYA VOL.1"は、大御所ヴィクター・オライヤの初復刻CD。優雅でとろけるようなガーナ・ダンスバンドとはちがって、ワイルドな持ち味がたまらない。ただし80年代の音源をまとめた"VOL.2"のほうはいまいち。この勢いでボビー・ベンソンやロイ・シカゴも復刻してもらいたい。
 
 ナイジェリアといえば、偏りを避けるため今回やむなくランク外となったが、ジュジュやフジなどの充実ぶりもめざましかった。サニー・アデのレア音源はいうにおよばず、I・K・ダイロ、トゥンデ・ナイティンゲール、カヨデ・ファショラといったジュジュ・マスター、「キング・オブ・フジ」シキル・アインデ・バリスターなど、知られざる音源が次々と日の目をみてうれしい悲鳴。これらすばらしい音源を一気に12枚もリリースしてくれたロンドン在の新レーベルAFRICAN SONGSには特別賞を贈りたい心境。
 
 アフリカからもう1枚ランクインした"BOWAYO & OMESONGO"は、OKジャズの元メンバー、サム・マングワナ、ンドンベ・オペトゥム、サックスのエンポンポの3人で結成されたティエール・モンド・コオペラシオンのこれまた貴重な初復刻盤。マングワナ参加の前半の4曲は80年代はじめのOKジャズにそっくり。マングワナに代わって同じくOKジャズ出身のジョーとジャトが加わった後半の4曲はOKジャズとは趣が異なるノー天気な曲調。おもしろさでは圧倒的に前半。後半はオマケと思ったほうがいい。コンゴのマニアックな音源復刻で定評あるNGOYARTOレーベルからはこれからも目を離せない。
 
 2003年はカリプソがふたたび脚光を浴びた年でもあった。5位にランクの"LONDON IS THE PLACE FOR ME"は、50年代、植民地時代のトリニダードから出稼ぎに来ていたロード・キチナー、ロード・ビギナー、ザ・ライオンなどカリプソニアンたちによるイギリス録音をまとめたもの。まとまったものとしては、かつてオーディブックから出ていた『ゴールデン・イヤーズ・オブ・カリプソ第2集』ぐらいしかなかっただけにこの復刻はうれしかった。ガーナ・ハイライフとの意外な結びつきが見えてくる。
 ついでに、80年代なかばのトリニダードで70歳をこえたキチナーを中心にドキュメントした『カリプソ天国』のDVD発売も喜ばしい出来事だった。
 
 今年はエノケン生誕100周年ということでエノケンの歌がいくつも発売、再プレスされた。なかでも戦前録音を2枚組CDにまとめた『唄うエノケン大全集』が印象ぶかい。前年に6枚組CDボックス『ザッツ!浅草芸人〜江戸前の粋』の発売がなければ、文句なしのランクインだった。
 
 また「日本ポピュラー音楽の父」服部良一の没後10年にあたることから、ビクターに移籍した48年から54年までの作品をコンパイルした2枚組CD『東京の屋根の下』と、上田賢一氏の服部研究本「上海ブギウギ1945」(音楽の友社)が出た。ずいぶん前に日本コロムビアから発売された3枚組『僕の音楽人生』を補完するものとして待望のリリースだ。個人的には、妹の服部富子と灰田勝彦の初復刻曲がうれしかった。ジャズ、ブギウギ、ルンバ、タンゴなどの外来音楽を完璧に昇華した服部ではあったが、戦後のマンボとロックンロールにはなじめなかったようで、そんなところも見えてくる。
 
 坂本スミ子がそのむかし「ラテンの女王」といわれていたことは知ってはいたし『南国の夜』などで聴いたことはあったけど、まさかこんなに歌がうまいとは思わなかった。声質や歌い方は雪村いづみに近いがツヤっぽさでは数段上。日本一のラテン歌手だ。伴奏陣(有馬徹とノーチェ・クバーナ?)の好演も光る。いまとなっては夢だけど、ソノーラ・マタンセーラばりのグァラーチャをコンフント・スタイルで歌ってもらいたかった。
 
 マイルス・デイヴィスはさほど好きではない。そんななか、唯一手許に置いていたかれのCDが"A TRIBUTE TO JACK JOHNSON"だった。そんなわけで、今回の5枚組コンプリートCDボックスの発売は"BITCHES BREW"のコンプリート盤が出たとき以上にうれしかった。プロデューサーのテオ・マセロがズタズタにテープ・コラージュを施した作品といわれていたが、意外にもオリジナル・セッションと大差ないのに驚かされた。やはりジョン・マクラフリンのギター・プレイが光る。マイルスのロック・アルバムといわれるのも納得。スティーヴ・グロスマンのサックスも相変わらずしょぼいし、このスノッブなムードにはいまいちなじめないものの、サウンドのクオリティはさすがに超一流だ。
 
 上記のほかにも、ゼキ・ミュレン『トルコ歌謡の遺産』、セプテート・カウト"CONGO SE DIVIERTE"、アルバート・アイラーのラスト・レコーディング"NUITS DE LA FONDATION MAEGHT 1970"、アラン・シルヴァ怒濤のコレクティヴ・インプロヴィゼーション"ALAN SILVA AND THE CELESTRIAL COMMUNICATION ORCHESTRA"などがとくに印象に残った。



(12.23.03)



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by Tatsushi Tsukahara